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「読んだ!」 by マミコ
2008年3月 3日
ベートーヴェンの親友になりたい
「もうほとんどベルばらライクなめくるめく世界!」「絶対読んで! 読んだらあなたもマリーアントアネット口調になってよ!」と言われて手に取りました。
ベートーヴェンといえば、子どもの頃に読んだ(読まされた)ポプラ社かなんかの伝記モノ程度の情報しかなかった私。初っぱなから熱い彼のラブレターにびっくり。まあ彼の情熱と女性観、結婚、恋愛観については他の二人がみっちり語ってるのでここでは割愛。というか、やっぱ私は男はツンデレどころかツンツンでも良いと思ってるくらいなので、時代もあるとはいえあまりに熱くドラマチックに愛を語るベートーヴェンにあまり萌えないのである。おまえこんなこと書いてるけどちょっと前に別の女にもおなじようなこと書いてたやんけと思ってしまうっていうかぁ(笑)。
そんな私がこの本にハマったのは、なんといっても著者青木やよひさんの、登場人物たちに対する深い共感と想像力の豊かさである。ベートーヴェンという一人の天才が人生の中で出会った数多くの個性的な女性たちひとりひとりが、本当に魅力的に描かれている。現存するわずかな資料から、彼女たちの性格や立場、ベートーヴェンとの関係とその思いにきめこまかに言及されていて、まるで「源氏物語」を読むようだと思った。「源氏」も、正直源氏自身はどうでもよくて、彼をとりまく個性的な女たちが面白いわけですからね。
ベートーヴェンに深い尊敬と愛を感じていたが彼の気持ちが美貌の妹に向いていることを知り、混乱しながらも最終的には彼らの愛を影で支え続けたテレーゼの気持ちは手にとるようにわかるし、ベートーヴェンの才能に惚れ込んで彼に真の友情を感じ、盟友ゲーテと彼をつなげたベッティーナ・ブレンターノの黒い瞳には同性ながらクラクラするし、ベートーヴェンのピアノ曲を誰よりも理解し表現することができたと言われるピアニスト、ドロテア・フォン・エルトマン男爵夫人が、最愛の子どもを亡くしたときに、ベートーヴェンがやってきて無言でピアノの前に座り、長い間亡き子のために即興演奏をしてくれたというエピソードには本当にグっとくる。また、ベートーヴェンが「ざんげ聴聞僧」と呼び、他人には決していえないような心の悩みや重荷を打ち明けることができたというマリー・エルデーティの存在も気になる。彼女はおそらくベートーヴェンとは「恋愛関係」にはなかったわけだけど、ここで著者は彼女をして「自己の内面の秘事を打ち明けうる異性間の友情は、恋愛以上に稀にしか存在しえないものだ」と記す。そーそーそうなんだよね。この本の何が面白いって、著者はベートーヴェンと様々な女たちの関係を、「まず恋愛ありき」では決して語ってないというところがステキなのだ。もーさー、そういうのアキアキなんですよ。男と女だとすぐ安易な色恋沙汰で語られちゃうのってさ〜。
ベートーヴェンが女性にありきたりな恋愛関係や婚姻関係を求めてはいなかったことは他のみなさんも描いているけれど、彼と浮き名を流した(ように伝えられる)多くの女性と彼との関係を、「会ったその日に恋に落ち!」みたいにはしょらず、彼らが一人の人間同士として出会い、その人間性に惹かれ、興味を持ち、友愛と敬意をはぐくんでいく過程をちゃんと伝えて描いているのがステキなのだ。その先に、「不滅の恋」があったのか、「変わらない友愛」が育ったのか、その本当のところはわからない。でもそんなのどっちだっていいんだよね正直。
私は、数多くの女性たちと、そのような関係を作ることができたベートーヴェンという人にグっとくる。私がこの時代に生きていたら、彼の「不滅の恋人」になりたいとは思わなかったろうけれど、彼という一人のとても魅力的な人間と、どんなときも変わらぬ友情をわかちあえる「無二の親友」でありたいと心から願ったのではないかと思う。そっちのほうが結果的にずっと楽しいよ。間違いない!
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