tangledtaleな旧暦生活

ロハスでスローライフでサステナブルな旧暦本を
二冊も書いてしまったmamikoが、
懺悔の気持ち(なんでだ)を込めて綴る、
もつれにもつれた旧暦ヲタコラム。

mamiko

第2回  三月三日は海辺で神と遭う日?

さて、遅くなったが第二回であります。新暦では五月五日も過ぎてしまってますが、まあそれはさておき、まだひなまつりの話が終わってないんだよ!(逆ギレ)

ということで今年の旧暦の三月三日は、新暦の四月八日でした。前回、三月三日の節句がもともと水辺で禊ぎをする行事だったということに触れました。ひな祭りにひな人形を飾るのは、禊ぎのため水に流した「人形(ひとがた)」がルーツであったであろうということも。

流しびなといえば、前回少し触れた鳥取県の用瀬町のほかに、もうひとつ、全国的に有名な雛流しの神社があります。それが、和歌山県にある加太淡島(淡嶋)神社*1です。こちらの流し雛は用瀬町のそれとはちょっと違って、全国から寄せられた大量の古い人形を船にのせて海に流して供養するという大がかりなものだ(神社で供養ってのは変だけど‥‥、まあつまりはお祓いをしてるってことか)。大きな船に乗せられて海に流されるひな人形の映像を、テレビで見た人も多いのではないでしょうか。全国から送られてくる古い人形をお祓いしているところでもあって、私が子どものころ一世を風靡した「髪の毛が伸びる人形」の類も多く奉納されてるらしい*2(コワ)。 ちなみに↓の本は、山岸凉子さんの超コワい人形ホラー『私の人形は良い人形』。夜寝られませんよ!

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 まあ、それはさておき、ここに祀られている神は三柱。オオクニヌシ(大国主命=だいこくさま)と同一視されるオオナムチノミコト(大己貴命)と、オキナガタラシヒメ(息長足姫尊=神功皇后)、そしてもう一柱が、いわゆる「エビス(恵比寿)さん」と同一視されるスクナヒコノミコト(少名彦命)という神様だ。このスクナヒコは大国主の国作りを助けたといわれる小さな小さな神様で、昔話の一寸法師のモデルにもなったといわれてる。古くから医薬の神としても信仰されており、『古事記』には、国作りを終えたスクナヒコは「粟島」から船にのって常世の国に旅立ったと伝えられている。つまりスクナヒコ=淡島神、というわけだ。

 別の説もある。『紀伊国風土記』によれば、淡島の神様というのは女性の神さまで、太陽の神アマテラス(天照大神)の娘で、海の神である住吉大神の妻神だったのだそう。しかーし! 淡島神は女性の下の病(つまり婦人科系の病)に悩まされていたので、住吉の神から離縁され、船に乗せられ流されて三月三日に和歌山県の淡島についたということらしい。(ちょっとひどくないかいそれ)。で、そのときに病気の穢れを祓うため、紙でひな形(人形)を切って流したのが雛流しの始まり、と伝えられてるそうです。

 まあこのへんの話は古くから民間信仰のこじつけと言われてきたそうなのだけど、この淡島神社信仰は、いつしか女性の婦人科系の病に効果がある神様として、江戸時代以降は女性信者を多く巻き込んでかなりのブームになったんだそう。淡島明神のお札を入れた箱を背負って全国を遊行する「淡島願人」が、女性に変わって淡島明神に代参するとして、女性に櫛やらかんざしやら女性の装身具を納めさせていたらしい。基本は婦人病平癒や安産などを祈るが、九州の淡島神社の水蛭子社のように、水子供養(だから神社で供養って‥‥)を行うところもあるようです。まあ昔は神仏習合だったわけで、そういえば東京浅草寺の中にある淡島堂も、女性の病気に霊験あらたかと言われています。

そういや淡島神社は和歌山市「加太」にあるんだけど、古くからお祓いするべき災いのことを「禍蛇(かだ)」っていうよな〜、と考えると面白い。人形(ひとがた)ってつまり人の「禍蛇」なのね〜とか。それに「禍蛇」っていえば前回触れた「蛇(巳)」にも通じるわけで。おーもーしろーい。人形のようにちっちゃい神様、スクナヒコは船であの世に行き(流され)、婦人病に悩まされた淡島神は人形を海に流して厄払いした。それに水子は文字通り水に流れた(流した)子、これもまた人に似てるけどまだ人ではない、「ひとがた」とも言える。うーむ。

ちなみに笙野頼子の鳥肌モノ名作『水晶内制度』*3にはここで書いたような神様やエピソードがずらりと勢揃いで出てきます。笙野作品についてはまた改めてミズシマ部員と熱く語るとして、とりあえずまだ続きがあるので書く。


●神様のお葬式??  美保神社に伝わる「青柴垣神事」 (写真下)

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さて、さらに今回はもうひとつ、三月三日にまつわる面白い神事について触れたいと思います。

前回、三月三日は、水辺のお祓い、そして神様の化身としての「巳(ヘビ)」との邂逅というイメージが強いことを触れました。「巳」には、まだ成形していない胎児というような意味もあるという話も書いたけど、成形していない胎児といえば日本神話でいえばヒルコです。国造りで、イザナミ(女性)のほうがイザナギ(男)に先に声をかけたから*4、骨のない子(ヒルコ)ができてしまって、その子は海に流されたという話*5。そしてそのヒルコは、日本神話においては前述したエビス神と同一視されています。「蛭子」って書いて「ヒルコ」とも「エビス」とも読むもんね。

このエビス神は、先に触れたちっちゃい神様、スクナヒコ神と同一視されているけれど、実は『古事記』にはもう一人、エビスさんと同一神とされるコトシロノヌシ(事代主神)という神様がいる。この神様は神話におけるいわゆる「国譲り」*6に於いて重要な役割を果たす神様なのだが、そのエピソードにまつわるとても面白い祭りが、島根県の美保神社に伝わっている。それが、「青柴垣神事(あおふしがきしんじ)」です。

美保神社は島根半島の東端にある古い神社で、このお祭りは、一言でいうと海の神のお葬式、みたいなお祭りです。ちょっと説明くさくなるけど、このコトシロヌシは、オオクニヌシと一緒にずっと出雲の国造りをしてきたんだけど、後からきた天つ神に国を譲らなくちゃいけなくなっちゃったんです。で、釣り好き*7だったというこのコトシロヌシさん。その知らせをちょうど美保関で釣りしているときに聞いたんだそうです。その知らせを聞いて大ショックを受けた(かどうかはしらないが)コトシロヌシさん。きっとオオクニヌシの苦渋の決断を慮ってか、あえて反対せずただ一言、「承知した」と言い、その場で乗っていた船を踏み傾け、逆手を打ってそれを青柴垣に変えて隠れてしまったということらしい。隠れた、ってのはつまり死んじゃった、あの世にいっちゃった、という意味ですね。で、このエピソードを再現したのが「青柴垣神事」というお祭りなわけです。

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 私は2年前の春にこのお祭りを見に行きました。とにかくユニークで神秘的なお祭りでした。港には「青柴垣」を建てた二艘の船が浮かんでいて、そこに氏子衆が乗り込んで港を一周して帰ってくるというそれだけのお祭りですが、乗り込む氏子たちの姿がとにかく面白い。頭からすっぽり白い布をかぶった小忌人(おんど・写真左)といわれる氏子の女性*8が、男性の氏子に肩車のように担がれ船に乗る姿はかなり異様です。これは事代主神が神懸かりした存在という設定だそうですが、たぶん、足腰が立たず小さいままだったヒルコ状態を模しているのかなあと思われます。また同じく神懸かりした存在である當屋(とうや・touya.jpg写真下)という別の男性の氏子は、目をつぶり、足下もおぼつかない神懸かりした状態のままで、ほかの氏子に支えられながらやはり船に乗り込むのです。


 この祭りを行うために、氏子たちは1年かけてさまざまな禁忌を含んだ潔斎を行うのだそう。鶏肉を食べちゃいけないとか何度も海に禊ぎに通うとかそれはそれは大変らしい。日本の祭りの中でもかなりディープな、重要な祭りなのではないかと思う。ちなみに、このお祭りは毎年新暦四月七日に行われているため、以前取材にいったときに宮司さんに、「これはもしかすると本来は旧暦三月三日のお祭りなのでは?」と問うてみたところ「まさにその通り」というお答えをいただきました。



 思えば「源氏物語」で、須磨に左遷された源氏が、嵐の夜、海辺で住吉の神と遭遇するのも三月三日のことだった。ずいぶん前に調べた与那国島の古い昔話にも、三月三日に海からヘビ神が来たという伝説があった。ちゃんと調べたことはないけど、おそらくこの時期に、日本中のアチコチで、水辺で神に出会うような祭りが行われてるんじゃないかと思う。海の民の本拠地*9である九州とかにはいっぱいありそうです。

 青柴垣神事はいわば神のお葬式のような神事だけれども、一度隠れて再び復活して戻ってくるという意味合いもあるそう。天つ神の時代になって、神様は天上から降りてくる存在と言われるようになったけど、それより古い時代は、神とはいつも海の向こうからやってきて海に帰っていくものだった。沖縄神話のニライカナイ*10も海の向こうにあるもんね。そういえば、昔から海で亡くなった人の水死体を「えびすさん」と言うけど、海で水死体を見つけたらそれは神さまだから放置しないでちゃんと船に上げて連れ帰れば豊漁となるというのは、今も漁師たちの間に伝わる信仰なのだそう。地球の進化の歴史を考えても、命の始まりは海からだったわけだし、そう考えるといろいろと感慨深い。

  • *1: 淡島神社全国の淡島神社の総本社 和歌山県和歌山市加太http://www.kada.jp/awashima/
  • *2: 髪の毛の伸びる人形調べたら一世を風靡した「お菊人形」は北海道の萬念寺に奉納されてるらしい。でも淡島神社にも曰くつきの髪の毛伸び系人形は多く奉納されてるそうです
  • *3: 『水晶内制度』笙野頼子が2003年に発表した小説。原発を国家の中枢として、日本政府に黙殺された女達により建国された女人国ウラミズモ。例によって作家本人にかなり近いイメージの亡命作家が新国家のため出雲神話を書き変えていく。もうスクナヒコナは「人形」として焼かれちゃうわ、国のルーツは「淡島」だわもうこっちのほうが本当の歴史だったんじゃないのと思わされる溜飲下がりまくりの名作である。神話を知らなくて読んでも面白いが、神話を知って読むとなお面白い。
  • *4: 先に声をかけたから女が先に声をかけたからどうだというのだ! とフェミ的にツッコミどころありまくりのエピソードである
  • *5: 流された子ちなみにヒルコの次に生まれた"淡島"という子も、やっぱ人間の形をなしてないというので流されちゃうのである。つまりエビスさんとアワシマさんはほぼ同義ということだね
  • *6: 国譲りいわゆる天皇家の祖先であるアマテラス系の天つ神が、オオクニヌシに代表される出雲系の国つ神を征服して国つ神は国を譲らざるを得なくなったって話(はしょりすぎ)
  • *7: 釣り好き恵比寿さんと釣り竿はセットだもんね
  • *8: 小忌人(おんど)少女、もしくは氏子衆の妻である小柄な女性が役となる
  • *9: 海の民の本拠地海の三女神を祀る宗像大社、海部族である安曇氏のルーツである志賀海神社など。九州は古代日本の海の表玄関なのだ
  • *10: ニライカナイ沖縄神話の中で信じられている海の彼方にあるといわれる神の国、常世の国